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福岡家庭裁判所久留米支部 昭和47年(少)627号 決定

少年 T・K(昭三九・一二・一六生)

主文

少年を教護院に送致する。

(本件送致理由)

本件送致理由の要旨は、

本件少年は、実母T・S子が久留米市で中学生の頃(当時一七年)、B・Bと婚姻外において肉体関係の結果妊娠して出生、爾来殆んど祖母T・E子の許において監護養育を受け、その後祖母と共に大阪府高槻市内に在住中、盗癖が生じ、昭和四六年七月頃より同年八月頃までの間、二回同市内において他人所有の自転車等窃取して、児童相談所の補導を受けていたものであるが、

1  昭和四六年八月一〇日高槻市○○○×丁目×××番地××先路上で、○田○登所有の子供用自転車一台(時価五、〇〇〇円相当)を窃取し

2  昭和四六年一一月二八日午後三時頃、児童A(当時七年)と共謀して放火を企て、高槻市○○○○××番地××ガス器具販売業○井○男方裏窓より屋内に侵入し、同店住込店員居住の六畳間において、同間押入より布団等を積み重ね、同店舗内の事務机よりマツチを取り出して布団に火をつけ、現に人の住居に使用している同店舗に放火して、天井に燃え移らせ、よつて同店舗約一五坪(時価約四〇〇万円相当)を焼燬し

3  昭和四七年四月九日より同月二五日まで前後一〇回に亘り、別紙触法行為一覧表記載のとおり、久留米市○町×××番地×○イ○ー○○店×階○バ○屋○店ストツカー内より同店々員○山○八○所有の現金五、〇〇〇円を窃取した外、八ヶ所において、八名所有の現金合計二万三、五〇〇円、犬四匹外五点(時価約六二万一、〇〇〇円相当)を窃取し

4  昭和四七年五月一一日午後四時頃、久留米市○○○○××××番地×○山○方前路上において、相当の注意をしないで家屋の附近でベンジンを燃やして火遊びをなし

上記触法行為を重ね、

5  さらに未就籍のため、小学学令期を一年徒過して昭和四七年四月入学するや、いち早く番長的存在にのし上がつて級友に悪影響を及ぼし、かつまた担任教諭に虚言を弄して教育に全く馴じまず、家庭にあつては実母がバー・ホステスとして稼働しているため本件少年の監護養育をなし難く、かつ本件少年に対する愛情も薄く、事実上養育し来たつた祖母が盲愛して本件少年を甘やかし過保護なうえ、躾が全くなされなかつたため祖母に反抗してその監督に服さず、最早本件少年を適正に矯正することができず、保護能力を完全に喪失している状態にある。

よつて、本件少年は保護者の正当な監督に服しない性癖があり、その性格または環境に照して、将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をする虞が多分にある。このため児童相談所において、本件少年を呼出し、その保護を考慮するも、たちまち逃走して適正な保護措置をなし難い状況にある。

以上、本件少年は年少であるが、その非行性は固定化して極めて高度であり、かつその性格まことに放縦であつて、その非行性格の矯正のため、少くとも六ヶ月間の強制措置の外、長期教護院において矯正教育を施し、その性格を改善することが必要であると思料されるが、強制措置をとるのに支障あるばあいやむを得ないので、本件少年の高度の非行性に特に留意を保し、少なくとも通常の教護院に送致してその資質の改善をなす必要があるものと思料されるので、本件送致をなした。

というのである。

(本件審判理由)

一  よつて審按するに、本件記録および当裁判所の調査・審判の結果によれば、本件少年は、実母T・S子が久留米市で中学生当時(三年生)同級生B・Bと肉体関係の末、出生し、当時実母は若年であり、まもなくバー・ホステスとして稼働するに至つたため、祖母T・E子が本件少年を未就籍のまま事実上殆んど監護養育し来たつたこと、祖母T・E子は本件少年を甘やかして過保護なうえ、躾を全くなさず、盲愛したため、本件少年は無規制かつ放縦な性格を形成し、祖母に反抗してこれに全く従わず、祖母はその保護能力を喪失していること、本件少年は、高槻市在住中、昭和四六年、満六年に達し小学校就学年齢に達していながら就学せず、やがて同年七月頃より盗みの味を覚えて、自転車等を窃取した結果二回児童相談所の補導を受け、さらに〈1〉本件送致理由1記載の窃盗をなし、〈2〉同年一一月二八日午後三時頃、児童A(当時七年)と共謀して以前何回か盗みに入つた先に侵入して金員窃取を企て、高槻市○○○町×丁目××番地××ガス器具販売業○井○男方裏窓より屋内に侵入し、同店住込店員居住の六畳間において、タンスの引出しを物色する等して現金を物色したが、見当らなかつたため、両名共謀して同間に放火することを決意し、同間の布団・衣類を積み重ねて、同店舗事務机の引出よりマッチを取り出して布団に火をつけ、現に人の住居に使用している同店舗に放火して、天井に燃え上らせ、よつて、同店舗を焼燬したこと、〈3〉本件少年はこの放火事件後昭和四七年三月頃祖母と共に久留米市に転居し、同年四月七日小学校入学直後、またもや連続して、本件送致理由3記載のとおり、窃盗を反覆敢行し、さらに〈4〉同4記載の火遊びを行つたこと、〈5〉本件少年は小学校においても、いち早く番長的存在にのし上がつて、気に入らぬ級友に対し、顔面蒼白になるまでその首を強く絞めつけたりする強暴さを発揮し、或は担任教諭に平然として虚言を吐き教諭を翻弄し、盗品を校内に持ち込む等の不良行為多く、教諭の指示に全く従わず一片の反省心も見当らない態度を示し、通常の学校での教育的限界を超えた生活態度であり、将来再び刑罰法令に触れる行為をする虞が多分に窺われる状況にある。そして実母T・S子は本件少年の住居の近隣に居住しているが、依然バー・ホステスとして稼働して奔放な生活をなし、本件少年を真剣に監護養育する気持なく、かつまたその生活環境に照し、本件少年の適正な監護養育能力は勿論、良好な教育環境にあるものともいえない状況にあつて、家庭において本件少年の保護矯正は到底なし得ない状態にあること、このため久留米児童相談所において、本件少年の上記状況に鑑み、その適正な保護矯正を講ずるため、本件少年を呼出すも、ただちに逃走して、行動規制を極端に嫌忌する反応を示していること、そこで同相談所長は本件少年の強制措置申請を考慮して、本邦で強制措置施設を有する唯一の教護院である武蔵野学院に対し、本件少年の強制措置入院の受入態勢を問い合わせたところ、同学院は一二年未満の少年に対する強制措置設備が十分でなく、その受入が困難であるとの回答がなされていること、が認められる。

二  上記〈1〉〈3〉の各行為はいずれも刑法二三五条に、〈2〉の行為は同法一〇八条に、〈4〉の行為は軽犯罪法一条九号に触れる行為であり、かつ〈5〉の状況は少年法三条一項三号イの虞犯少年にも該当するものというべきである。

三  以上の事実によれば、本件少年は未だ七年であるが、社会共同生活に全く馴じまない無法、無規律かつ放縦極りない人格形成がなされ、重大な刑罰法令に触れる行為を平然となし、その非行性格は極めて固定化して高度化し、既に自由を束縛する強制措置を相当期間必要とする段階にあるものというべきであるが、右施設として義務付けられた唯一の武蔵野学院において、一二年未満の少年に対する強制措置入院受入態勢が不十分、不完備である現状においては、次善の方法として、緊密な連絡の下、通常の教護院に送致して、本件少年が相当期間の強制措置を必要とする程度に非行性が高度化した少年である点を留意せしめて遺漏なきを期し、矯正教育を施して、将来健全な社会人となり得る人格の形成教育を期待せざるを得ず、執行面に上記障害がある以上やむなく本件強制措置許可申請は許さないこととして、なお、本件送致には、右許可されないばあいを慮つて予備的第二次的に、審判に付すべき少年として少年法三条二項の通常の事件送致が含まれているものと解するのが相当であるから、同法二四条一項二号により、主文のとおり決定する。

(裁判官 相良甲子彦)

別紙 触法行為一覧表

(昭和)年月日

場所

被害者

品名

四七・四・九

久留米市○町×××番地×○イ○ー○留〇店×階○バ○支店ストツカー内

○山〇八〇

現金五、〇〇〇円

〃・〃・一五

午後二時頃

同市○町××××番地×市営住宅自転車置場

○能〇二〇

子供用軽快自転車一台(時価三、〇〇〇円相当)

〃・〃・〃

午後一時頃

同市○町××××番地○吉○吉方

○吉○吉

現金二、〇〇〇円

〃・〃・一六

〃 一、〇〇〇円

〃・〃・一八

同市○○○町××××番地○豊○方

○豊○

〃 二〇、〇〇〇円

〃・〃二三

同市〇町××××番地○イ○ー○留○店前

○司○

子供用自転車一台(時価二、〇〇〇円相当)

〃・〃・二四

同市○○○町××××番地○本○方

○本○

犬(ポメラニアン一匹・時価五〇万円相当)

子犬(パグ 三匹・〃一〇万円相当)

〃・〃・二五

午後一時頃

同市〇町○○住宅公務員宿舎階段入口

○上○光

子供用自転車一台(時価一万五、五〇〇円相当)

〃・〃・〃

午後五時頃

同市○○町○○××××番地の×○島○喜方

○島○子

貯金箱一ケ

現金三〇〇円

〃・〃・〃

午後五時三〇分頃

同市○町○○××××番地○下○子方

○下○子

財布一ケ(時価五〇〇円相当)

現金二〇〇円

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